ピアノマニア探訪/ファツィオリ
45年ぶりの記録的大雪となったその土曜日の東京に
家族をおいて一人行っておりました。
大学時代のゼミOB総会に参加する目的でしたが、
空いた時間、生涯一度は触れておきたかったピアノに
会いに、港区田町のピアノフォルティ(株)さんへ。
FAZIOLI ファツィオリ・ショールーム
世界で最も贅沢なピアノと言われるファツィオリで
ございます。
設立1981年、私と同世代ですが、いつだったか4本目
のペダルが開発されたという情報で、その名前を知り
ました。
2010年ショパンコンクール、翌年チャイコフスキー
コンクールでも公式ピアノとして採用され一躍注目を
集めましたが、一緒に有名になったのがその両方の
コンクールでファツィオリを弾き大きな結果を残した
ダニール・トリフォノフ。
彼の日本初リサイタルからサポートしているという
ピアノフォルティ(株)さんは、ファツィオリの日本
総代理店です。
あ り ま し た
トリフォノフお気に入りの一台、中には名立たる
ピアニストのサインが。
ヒューイット、ホロデンコ、ルビャンツェフ、
トリフォノフ…
代表のアレックさんは、実はアマチュアピアニストで
PTNAコンペティションのシニア部で優勝されたり、
ジャズサックスにも熟達しているという音楽家。
緊張しつつもトリフォノフのお話を伺ってみると、
おー、ダニール。友だちだよ。とiPhoneを取り出して
貴重な動画や直筆メッセージを惜しげもなく次々と
見せてくださいました。とても気さくな方です…!
北陸では小松に小さめのファツィオリを弾けるホール
があるのですが、うちの長男は弾いたことがあるのに
私は弾いてない、残念だというと、アレックさんは
肩をすくめて同型のピアノを指差し、どうぞこれを
弾いてください、何なら動画撮りますよ!とまで。
動画は遠慮しました…
ショールームには他にも2011年ショパンコンクールで
実際にステージにのぼったそのもののピアノをはじめ
全ての機種が展示されていて、本当にすみません、と
思いながらも、全て弾かせていただきました。
指が…
自分の指が別物になったような初めての感触。
まず全ての機種において、整備がマックスの状態で
完璧に行き届いているであろうことがわかりました。
これまでいくつものショールームや展示場に出かけて
きたつもりですが、こんな経験はありません。
息が詰まるほど美しい世界観。
撫でるだけでとろけるような音がこぼれる、ごく軽い
タッチ。
音は素直で明るすぎず暗すぎず、高音から低音まで
深い気品のあるあたたかな響き。
この上ない天上のバランス。
ああ、言葉は無力。私の演奏も無力。
夢のようなピアノ談義と、イタリアのエスプレッソ
をいただきながら、うちには1年前にご縁があった
BOSTONがいます、というお話になりましたが、
おー、タケダさん?富山なら。なおひろさん。
よく知っています。とうちでお世話になっている
調律師さんの名前が。
世界が狭いというのは本当かもしれなかったです。
なかなか、教室や家庭で簡単に弾ける部類のピアノ
ではないわけですが、何か罷り間違っていつか手に
入れられることがあったら…
憧れの域を出なくても夢は膨らんで、ショールームを
出ようとしたとき、
「あ、これも見てってください」
ガス圧式のピアノベンチです。
イスの微妙な高低を決めるのにハンドルをぐるぐる
回さなくてよいのは、手首の負担もなく何よりも
スマート。
目盛りがついて微細な調節も可能。
左上の丸いハンドルを半回転もさせず、ゆっくりと
音もなく上下します。
ちょっと高機種の電子ピアノが一台買えそうなお値段
ですが、こ、これなら、家庭にもいつか…
現実と非現実を思いながら外に出ると、都会の街を
真横に滑走する吹雪。黒いコートは一瞬で真っ白に。
ちょっと、忘れられない日になりそうな予感がしました。