指導方針
私の指導方針は、習っていただいた皆さんに“ピアノをやっていてよかった”と思っていただくことです。
そしてできれば、その方の人生において、ピアノを弾くことでしか得られないようなすばらしい景色を、体験していただくことです。
ピアノを習おうかな、と思うときは、きっと皆さんそれぞれ理由をお持ちのことと思います。
楽譜が読めるようになりたい。
学校の音楽の授業で苦労しないように。
音楽を楽しめるように。
心が豊かになるように。
ピアノをやめたいな、と思うときは、きっと皆さん同じような理由をお持ちです。
楽しくなくなるからです。
楽しくない理由は、練習が大変なこと、
なかなか上手にならないこと。
ここで、ときどきちょっとボタンのかけちがいがあることがあります。
ピアノは、習っただけでは上手にはならない習い事です。週に一度のレッスンに通っただけでは上手にはならず、家での練習をつづけてはじめて上達していきます。
レッスンだけでめきめき上手になる方法があれば、どんなにいいでしょうか…
というのも、ピアノを弾くという活動は、5本の線が密に並んだ『五線譜』とよばれる紙に5本の線の上や狭間に小さなマルが記された『楽譜』が求める音を、88個の鍵盤の中から探し当て10本の指のうち指示された指を動かし、指示された長さの分だけ指示された大きさで音を鳴らし、指示されていない音と音のつながり、重なりを想像しコントロールし続けてはじめて音楽として成立します。
日常生活の中でも、かなり複雑な活動だといえます。
その複雑な活動を、レッスンではなるべくわかりやすく印象に残るように、お伝えしていきたいと思っています。
レッスンで理解ができたら、そのあとは実際にすらすらと弾けるように、なるべくたくさん鍵盤で指を動かして、練習する時間になります。
レッスンの時間には限りがありますので、なるべくたくさん指を動かす時間というと、家での練習ということになります。
この、家で練習するということが、わかってはいても、なかなか簡単にはいかないことが多いです。
大人も子どもも、だれもが日常をがんばって生きていて、家は、そのがんばりを癒す場所として機能しています。
家は、リラックスの場所であることが本来、自然です。ピアノを弾くことが喜びになれば、その時間は癒しの時間になりえますが、そうでなければ大変複雑な活動を強いられていきます。家でのリラックスタイムに行うのは、本当はとても不自然なことかもしれません。
レッスンという場所では数十分で習得できたことも、家で復習するのに、かなり骨が折れることがあります。
それは先生が横にいるかどうか以上に、その場所が「がんばりやすい場所かどうか」に左右されるものでもあるのではないかと考えられます。
家でくつろぎたいのに、がんばらなくてはいけない。
がんばりたいのに、がんばれない。
そんな矛盾めいた悩みは、ピアノに限らず、勉強でも家事でも仕事でも、いつも誰にでもつきまとうものかもしれません。
私たちが家で何かをがんばるということは、本当はもっと評価されてもいいことのように思います。
家で、少しでも練習をがんばれたら、すごいこと。
嫌々でもなんとかがんばれば、しっかり力はつきます。
これが当たり前と思わず、すごいことだと、自分でもお家の人にも励ましてもらえたら、明日ももう少しがんばれる…かもしれません。
とはいえ、やっぱりしっかり上達もしてもらわないと。
堂々巡りにもなっていきますが、レッスンでは、そんな練習の悩みも共有できる場でありたいと思っています。
練習への向き合い方は、人それぞれです。
どんな風に時間を使って、どんな風にピアノを弾きたいか、ぜひ思いを共有させてください。
私にも解決方法は見つからないかもしれません。でもその時々で一緒に悩み、なるべく良い方法を一緒に考えさせていただきたいと思っています。
ピアノは、ひとりオーケストラです。
自分でピアノを弾いているときでしか得られない音楽体験が、必ずあります。
それは、きっと人生の素晴らしい景色のひとつになるはずです。
ピアノをやっていてよかった、といつか思える、その道のりを一緒に過ごさせていただくのが、私の喜びです。