イリヤ・ラシュコフスキー ピアノリサイタル
昨日水曜の夜は、イリヤ・ラシュコフスキー ピアノ
リサイタル@北國新聞赤羽ホール/金沢市へ。
第8回浜松国際コンクールの優勝者ツアーでした。
初めて出かけるホールでしたが、それはそれは美しく
デザインにも音響にもかなり凝られたであろう創りで
リサイタルの期待も膨らみます。
その端正な容姿から、イリヤ王子と呼び親しまれる
彼のプロフィールをまとめますと、
- 1984 年シベリアのイルクーツクに生まれる。
- 5歳よりピアノを始め、8歳でイルクーツク室内
- オーケストラと共演。2001年ロンティボー国際
- コンクール第2位、2005年香港国際コンクール
- 優勝、2011年ルービンシュタイン国際コンクール
- 第3位、2012年12月浜松国際ピアノコンクールで
- 優勝等、数多くの国際コンクールで入賞歴を持つ。
- ロマンティックで繊細、そしてダイナミックで
- 野性的な表情を自在に表現し、音楽性の高さ、
- 卓越した技巧を日本の聴衆にもアピール、絶大な
- 支持を得る。音楽的な実力に加えて、端正な容姿
- も魅力のひとつ。
ということです。華々しい活躍ですが、実際に舞台で
拝見するイリヤさんはとても穏やかで思慮深い、
謙虚なムードをまとっておられました。
今回のプログラムは
- ベートーヴェン:ソナタ第23番「熱情」
- ブラームス:3つの間奏曲op.117
- ショパン:スケルツォ第1番
- ショパン:エチュードop.25(全12曲)
- スクリャービン:炎に向かって
- *アンコール
- スクリャービン:エチュードop.42-5
1曲目から、熱情の熱演。
はじめ少し固さを感じましたが、2楽章のチャーミング
な冒頭で空気が変わり、あたたかくくつろいだように
見えました。
フレーズが右手の単音だけになる部分でペダルを浅く
踏み続けたり、跳躍をノーペダルで打楽器的に鳴らし
たり、響き作りにも発見。
3楽章も堅実ながら熱くエキサイティングに駆け抜け、
観ていても鼓動がはやくなります。
次のブラームスは、去年の浜コンでおそらく多くの人
(私を含め!)を虜にした、シューベルトの即興曲
にも通じる、愛らしい豊かなあたたかみを備えて、
個人的に大感動。
ffでもppでもない中間の部分で惹きつけられる世界が
ありました。
プログラム順に曲の時代が新しくなり、イリヤさんも
だんだんリラックスしてきたのか、休憩をはさんだ
後半、ピアノの前に座るとぐっと腕を後ろに伸ばして
ひと呼吸。
聴く方も親密な気持ちになりつつ、スケルツォ。
スケルツォは本来”冗談”の意味ですが、ショパンの
スケルツォはとても冗談とはいえぬ重厚な内容で、
自分で弾くときはかなりシビアな気持ちになるし、
そのような演奏を聴くことも多かった、のですが、
イリヤのスケルツォはどこかコミカルな余裕があり、
知的で粋な美しさ。
ペダルを控えて、皮肉っぽく乾いたタッチを聴かせる
部分と、激した感情の素直な勢いを落とさず、大いに
ピアノを鳴らす野生的な部分の、そのギャップは、
何というかとても人間的な、目が離せない魅力です。
続くショパンエチュードOP.25の全曲は、先月日本で
録音されたCDがリリースされたばかり。
長く弾き込まれてきたのか、12曲で大きなまとまりを
形作るのは当然として、1曲1曲への集中力が物凄い、
渾身の音楽。
聴く方は精魂尽きたところで、最後のスクリャービン
でしたが、もはやアンコールかと思うほど、のびのび
自由に弾かれているように見えました。
実際のアンコールもスクリャービンでしたが、とても
身体に馴染んでいるようで、いくらでも聴いていたかった。
客席は半分ほど埋まっている感じだったでしょうか、
東京をはじめ、各地のリサイタルを満席にする人気と
実力をお持ちですが、空席は本当に勿体なく思いました。
楽しんで弾いてくださったのでしたら良いのですが…
その分終演後のサイン会はのびのび、和やかな雰囲気。
浜コンのCDにサインをもらいました〜
本当に勿体ないほど、ゆっくり丁寧に書いていただき
ました。
ゆっくりとその手元を眺めていて、はっと驚いたのは、
決して大柄でなく、むしろ華奢な身体つきと対照的な
幅広のがっちりした指先。
美しく繊細ながら、骨太で人間的な音楽の理由が少し
わかったような気がしました。
…このCD、凄い充実しています。
イリヤ優勝を決定づけた、大興奮のプロコフィエフ
協奏曲3番を聴きながら、車で帰途につきました。
夜空は満点の星。金管楽器の煌めきを背に、鮮烈な
プロコを繰り出すイリヤと、観衆の熱狂的な拍手が
フラッシュバックするような、熱い夜でした。