ドラマ『問題のあるレストラン』において完全に祝福されたシューベルト最後のソナタ
木曜フジテレビの『問題のあるレストラン』
を観ています。真木よう子さん主演です。
昨夜放送の第6話、正直かなりマイナーな
しかし超絶な名曲、シューベルトのピアノ
ソナタが登場しました。
素晴らしすぎる、きっとシューベルトも
かつてこんなに素晴らしく扱われたことは
なかったであろう金字塔的な使われ方で、
ドラマでも涙、シューベルト的にも涙する
くらいピアノ界にはニュースな出来事に
なってよいと思います。
リヒテルのCDを愛聴しています
ドラマは不器用で魅力的で“ポンコツ”な女性達が
必死に生きる、骨太のヒューマンドラマです。
女性達の背負うものは骨太すぎてきついの
ですが、ちょっとしたリズムブレイクとか
アコースティックで軽快な音楽の抜けもあり、
人生の悲しみと美しいユーモアがぎりぎりの
隣り合わせ感で、まったく秀逸な作品です。
昨夜放送話では、様々な種類の絶望を経験し、
心が折れかけばらばらになりかけた女性達が
穏やかに結束し、いよいよこれから人生の
巻き返し、反撃ののろしがあがりそうな予感
しかないシーンで、あれ?と思うほど、
露骨にピアノの音がきこえてきました。
シューベルトのピアノソナタ第21番変ロ長調、
最晩年の最後のピアノソナタです。
トリフォノフが、以前高岡文化ホールに
弾きにきてくれた年のレパートリーです。涙
ドラマの主人公たち、それぞれの人生における
きつすぎる現実に傷つき、絶望し諦めきって、
心に分厚いふたをしてぎりぎりで生きてきた
彼女達が、少しずつ自らの傷を見つめ直し、
ゆっくり傷を癒そうとしはじめたとき、
この音が神々しい賛美歌のように、次第に
たくましい応援歌のように猛々しく、そして
美しくくるみました。
シューベルトは、31歳で亡くなりました。
病がちで、あまり友好的な性格でなかったと
伝えられていますが、彼の多く残した歌曲や
美しすぎる詩的なメロディーからは、もう
溢れんばかりの人間愛がみてとれます。
同時代に生まれたベートーヴェンを敬愛し
作曲にも影響をうけ、ベートーヴェンの死後
1年で亡くなったシューベルト。
亡くなる2ヶ月前に完成したソナタ21番は、
ベートーヴェンがあの世の声をとらえたソナタ
32番にも似た崇高さもありつつ、きびしい
現実を直視してかつ認め、不気味に協和しない
グロテスクな低音はもしかすると自らの死を
予感し、人生への訣別と、愛する人への感謝と
そして最後はこの音楽を作り出すことができた
ということそのものの祝福の歌がきこえてくる
ようです。
この曲単独でベートーヴェン死後のロマン派
音楽に大きな影響を与えたと言われています。
一人の人間の内面世界を、ここまできつく晒し
映し出し、そして癒してしまうというのは
やはりピアノという楽器が、一人だけで88個
の音を同時に操れる、最大10個の音を同時に
出してハーモニーを自在に作ることができる
という独奏形態であることに由来していると
思います。
ピアノは孤独です。
孤独だから、わかることがあります。
孤独だから、わかりあえることがあります。
孤独は、孤独に向き合った同士がわかりあう
ことでしか、癒されないのかもしれません。
物語の中で必死に生きるシューベルトと
彼女達と、ピアノの力を思い知りました。