佐渡裕×ボジャノフの人間性と悪魔性②
今回のプログラムは、
ウェーバー(ベルリオーズ編曲)/舞踏への勧誘
ショパン/ピアノ協奏曲第2番
ブラームス/交響曲第2番
ロマン派ど真ん中の有名曲、佐渡さんも
”ごくオーソドックスなプログラムです”と
おっしゃいましたが、はじまってみると
全然オーソドックスにはきこえませんでした。
舞踏への勧誘がチェロのソロで雄弁に始まり
その後少しずつほかの楽器が語り始めますが
どの楽器も立体的にはっきりと主張して、
どこかざらっとした凹凸をつくりながら
佐渡さんのつくるバランスで有機的に活動
していました。
楽団の皆さんの表情は私の想像の3割増し
くらいに豊かでした。とても幸せそうです。
佐渡さんとつくる時間が大事で、1回1回の
ステージが大事で、1音1音が新鮮な喜びに
満ちていました。
そういえば楽団の任期の3年は中学校や
高校と同じ。これってつまり青春です。
才能ある楽団のツアー初日という青春の
一ページに混ぜていただいた幸せを
勝手に噛み締めました。
さて、ボジャノフについて語らなくては
なりません。
ピアノ椅子は非常に低く会場はどよめき
ました。いつも自分の椅子を持ち込む
そうです。子どもが座るベンチくらいの
ものでしょうか、座面が大人のヒザより
低いので、足の長そうなボジャノフが
座り込むとヒザが鋭角に曲がります。
*参考:ベルリンドイツ交響楽団との共演時
ここで椅子に関する考察を。
個人的に私も椅子は低いほうが好きです。
ここまで低くはありませんが…
椅子が低いと何が良いかというと、
①重心が下がり、鍵盤を押し下げやすく
なるため、弱い音で音抜けしにくくなる
②体や腕の重みの影響を受けなくなるので
ヒジから下だけの微細なコントロールが
しやすくなる
③鍵盤に目線が近づくので、ポジションが
とりやすくミスが減る
という感じでしょうか。
椅子が高いと①〜③が反対になりますが、
②が反対になると、体や腕の重みを鍵盤に
のせられるので、大きな音が出しやすく
大きな音の中での変化も色々つくりやすく
なります。なので、大きい音で攻めたい
曲では高めにすることもあります。
また音量でどうしても劣る女性ピアニスト
に高めの椅子の方が多いような気がします。
ある著名な女性ピアニストの方の本では、
ソロ演奏のときは椅子を高く、伴奏など
共演者がいるときは椅子を低くするそう
でした。
というわけで、ボジャノフが極端に低い
椅子を使用するということには、大きな
音よりも小さな音にだいぶんこだわりが
ある!ということが予測できます。
そうしてショパンの協奏曲2番がはじまり
ました。冒頭のオーケストラ演奏を、その
低すぎる椅子に深く座り込んできいている
ボジャノフは少しふんぞり返っているよう
にも見え、まるで生徒の練習をみている
先生のようです。しばらくすると腕を上げ
ピアノの蓋から上に手をもたれかけさせて
じっとオーケストラをみていました。
これは…
私の想像にすぎませんが、オケの響きが
今ピアノにどのくらい共鳴しているのかを
きいていたのでは。
おそらく今回初めて訪れたホール、今日の
この天気で(寒くて雨でした)観客が満員に
なった今日の今の響き方を、自分の腕に
伝わる振動によって確かめている!
…と、なにも弾いていないうちから既に
予測やら想像をかきたてて興奮をくれる
ボジャノフでありました。