最強、ラン・ラン!
自然に勝るものはないといいますが、この人、
絶対自然児のピアニストです。
大きすぎるスケール、奔放すぎる音色、陽気
すぎる笑顔。
表現力、テクニック、人間性、たぶん全部が
桁外れの魅力、才能。
ラン・ランのリサイタルに行ってきました
@愛知県芸術劇場。
ラン・ラン(郎朗)…五歳で地元のコンクール
優勝以来、天才ピアニストとして注目を浴びる。
オバマ大統領ノーベル平和賞受賞コンサート、
北京五輪開会式、日本ではのだめカンタービレ
映画版の上野樹里演じる野田恵の全ての演奏
吹替を担当したことで知名度を上げる。世界の
若手有力ピアニストの筆頭。
三階席まである1800席のコンサートホールは
ほぼ満席。チケット手配に出遅れてめぼしい
座席が残ってなく、ステージ背面席へ。
角度があるのでステージを見下ろすのに心地よい
長机が配置されており、このようなビジョンに。
何かに似た感覚…そうだ、体育館のアリーナ席。
割れんばかりの明るい拍手がスカーンと天井に
拡がる目下、ランランが登場。
プログラムはモーツアルトのソナタ5、4、8番、
後半はショパンバラード全曲。
モーツァルト、こんな濃厚なのないです。
ギャッと強いフォルテの直後に異常に甘やかな
ピアニシモ、ルビンシュタインの流れらしい
独特のルバートで時間を奔放に引き伸ばしては
縮め、ぐいぐい引きこむ魔力。耳慣れた8番冒頭
Aマイナーコードの連打と左足を踏みならして
リズムを取り、ジャズ奏者かロッカーかと。
後半のバラードは1番冒頭のフレーズでCの
ユニゾンをドカーンと鳴らしてそのままペダルを
踏みっぱなしCがフレーズ最後の♯Fよりも深く
残るなんて、沸き立つような驚き。
打鍵も自由奔放、見たことのない離鍵の角度と
その残響の迫力、当代随一のヴィルトゥオーゾは
かくなるものか、どんな超絶技巧も嘲笑う余裕を
持ちさらにもっともっと速くしながら全く崩れず
魅せる表現欲。そしてとにかくからだが柔らかい!
女性以上にしなやかで際立った弱音の美しさ、
ふくよかさ、万能。
最後まで鳴らすものは鳴らす、聴かせるものは
聴かせる、ランランの音づくりは随所で音を足し
たり、はたと休符があったり、グリッサンド並の
滑らかな高速弱音スケールがあったり、テンポも
もう自在で目も耳も離せない手に汗握るジェット
コースター、世にも美しく楽しいお化け屋敷。
たぶん即興でやっている部分も多いのではないか。
アンコールは三曲。
ショパンの華麗なる大円舞曲、ポンセの間奏曲、
モーツァルトのトルコ行進曲でした。
トルコ行進曲、キターー!です。ヴォロドスか
ファジルサイか、爆弾アレンジのトルコがいつ
始まるかと心震わせて待ちましたが、なかなか
どうして最後までノーマルなトルコ行進曲。
だけど彼にかかると全然ノーマルじゃない!
音は変えてないのに、物凄い爆弾!
アレンジなんて僕にはいらない、と一蹴された
気がしました。
楽しくて楽しくて、ピアノの楽しいオーラが
ホールに充満して、前半後半とも熱いブラボーが
飛び交うスタンディングオベーション。
陽気なランランは拍手のたび手の甲を客席に
ひらひらと振りかざして拍手を煽る。
ここまで皆が熱狂する陽気な天才は、かつての
モーツァルトかフランツリストか、はたまた
“笑っていいとも”のタモリさんか、とにかく
歴史に名を残すスーパースターであることには、
間違いないです。
小学生か中学生かそのくらいの時期、クラスや
学年を越えて、学校全体の人気者っていうのが
いました。やんちゃだけど何をやってもなぜか
ずば抜けて、注目されて、先生も一目置く、
誰からも愛される人。
体育館のアリーナ席で頬杖をつきながら、そんな
やんちゃな男子が体育館の真ん中でこれでもかと
芸を繰り出していくのを見ている私たち、全員が
とにかく無邪気に楽しくて仕方ない、懐かしい
放課後のような気持ちにさせられました。
そういえば、ピアノリサイタルでは必ず睡魔に
襲われているエリアがあったりしますが、
今回は見渡す限りなかったです。
ピアノって本当楽しいよ。
それを伝えるのに、たぶん今のランランに
かなう人はいないのではないか。
誰よりもピアノの楽しみを追求した結果、
常人が到達できないところまで行き着いて
そこにいたピアノの神様に誰よりも愛されて
しまった、自然児ランラン。きっとそうです。