わが青春のユンディ
ユンディ・リ ピアノリサイタル@高岡市民会館に
息子と行ってきました。
ユンディ・リは、現在32歳でございます。
記念すべき2000年、世界最高権威の一つである
ショパンコンクールで史上最年少の18歳で優勝者
となったその年、私は大学生で、それはそれは
夢中になりました。
ブーニン以来15年間優勝者がなかったショパン
コンクール、生ける伝説ポリーニやツィマーマン
の最年少記録を更新した若者の、しかも史上初の
中国人で、しかも木村拓哉さんに似た端正な姿に
日本ではものすごいフィーバーが起こりましたね。
そんな私もロングバケーション世代です。
▲当時のCDノーツの写真。サインはいつぞや貰いました
そのルックスのせいで不思議なアイドルまがいの
売られ方をしてしまったユンディ、という印象が
拭えないわけですが、私が夢中になったのは一応
演奏スタイルのほうでした。
正統派で何の衒いもないのに華やかでダイナミック、
物凄く美しい身のこなしと素直な歌い回し。
当時のショパンコンクールグッズを集め、毎晩
ユンディのビデオを繰り返し『スケルツォ2番』
『アンダンテスピアナートと大ポロネーズ』と
協奏曲1番まで真似して弾いていましたっけ‥
弾けないのに、友達と2台ピアノにつきあって
もらっていました。
ユンディの美しい体の使い方も、同じアジア人と
いうことで真似しやすかったのです(よく真似
している人がいたとききます)。
またアコーディオンの素地があるからでしょうか、
自然な熱っぽい呼吸がショパンにとても合っている
ように思えました。
そんな思い出に浸りながら、今日のリサイタル。
プログラムは
ベートーヴェン:ソナタ第14番「月光」
ベートーヴェン:ソナタ第23番「熱情」
ショパン:ノクターン第1番
ショパン:ノクターン第2番
シューマン:幻想曲
予定とは前半後半で変更になったみたいでした。
現在ベートーヴェンに傾倒しているそうで、
この挑戦的なラインナップ。
私が思うユンディの良さは、ユンディ節という
ほどの主張は(良い意味で)ないのに、ユンディ
にしかない説得力があるということ。
どんな曲をひいても、ユンディの体からは素直で
真面目で、華やかな音がします。
木村拓哉さんと似ている話がずっとありますが
その木村拓哉さんの人気の理由は、声だときいた
ことがあります。
誰でも声を出すときは、相手によく思われたくて
取り繕った声を出すものらしいのですが、
木村拓哉さんは、まったく素の喉からそのまま
声を出しているから魅力的なのだとか。
ユンディの音は、そんな感じがします。
素のオーラで、多少楽譜と違っても、ちょっと
音がはずれても、ペダルが濁っても、全然平気。
何よりも、観ているだけで美しいフォーム。
フレーズの熱量と、圧倒的なスター性。
ベートーヴェンこそ最初の固さが気になりましたが、
ちょっと、ちょっとだけです。私には。
後半ショパンにきてやっぱり、とてもしっくり。
最後のシューマン、私は少し苦手だった幻想曲。
苦手な理由がその気まぐれさ、取っ掛かりのなさで
眠れない夜にとりとめもなく次々と思い出しては
消えてまた現れる、あの悪い発想のようなもの。
精神を病んでいったシューマンのるつぼに自分も
はまっていきそうで、聴かないようにしてましたが
ユンディの幻想曲は、それにまっすぐ立ち向かい
陰なるものから救ってくれるような力がありました。
好きになりそうです。
特筆はアンコール
アンダンテスピアナートキター!
ショパコンのあの感動再び!!
14年前ワルシャワで弾いて世界を熱狂させたあの
アンダンテスピアナート(のポロネーズ部分)!
かつて真似した動き、そのままではないけれど、
当時よりもっとたっぷりと確信に満ちた呼吸、
瑞々しく駆け抜けるフィニッシュのキラキラは
会場の誰もが目をハートにしたのではないかと!
(たぶん)
そんな熱狂的拍手にこたえたユンディが人差し指を
上げて4曲目にサービスしてくれたのは、なんと
リストのタランテラ。
度肝抜かれました。
正直、他のどのプログラムよりもユンディの今の
魅力が全開に解放された凄みがありました。
これ‥アンコール聴けなかったら‥ 大損
家に帰って、息子にピアノを弾かせたら、案の定
そっくり真似しようとしてました。弾けないけど。
血筋?
いや、ユンディの力です。