牛田智大(15歳)ピアノリサイタル
牛田智大 ピアノリサイタル @ 石川県立音楽堂
コンサートホール に行ってきました。
牛田智大さんは、日本人クラシックピアニストと
して史上最年少の12歳でCDデビューを果たし、
天才的な実力もさることながら、天使のような
ルックス、乙女のような初老のような魅力ある
キャラクターまで兼ね備えたピアノ界の星として
大注目のピアニスト、現在15歳です。
我らが高岡文化ホールへワンコインコンサートに
来られたのが2年半前で、私もそれを聴いていた
のですが、本当に遺伝子レベルで別格の実力、
そしてまさに天使的アイドル性に驚嘆し、そして
満足したので、今回、そこまで足を運ばなくても
いいかなと正直なところ思っていました。
軽い気持ちで息子を誘ったら、行くでしょ、と
いうので、そうですか、とまあ、そんな感じで
ふたりで行ってきたのですが、まあ本当に、
良い意味で裏切られた、とにかく凄い、行って
よかった、いや行かなければならなかった。
とにかく素晴らしいリサイタルでした。
プログラムは
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第11番イ長調 (トルコ行進曲付き)K.331
ショパン:バラード第1番ト短調 Op.23
リスト:「死の舞踏」~『怒りの日』によるパラフレーズ S.525
シューマン:トロイメライ
ショパン:練習曲 Op.10-3 「別れの曲」
リスト:パガニーニ大練習曲集より第3曲「ラ・カンパネラ」
ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 op.36
ピアノ界を代表するザ・名曲とザ・超絶しかない
ラインナップに驚嘆。そのうち超絶の難曲群は、
前回拝聴した13歳の天使牛田君からはちょっと
想像がつかない選曲。
死の舞踏、しかもサンサーンスでなくリスト。
ラフマニノフの爆弾ソナタ、しかもオリジナルの
初版でも改訂版でもなく、ホロヴィッツ編曲版。
牛田君の天使性やいかに、と思わせられつつ
2階席まで満員のコンサートホールに座りました。
ぎりぎりの当日券で2階席に
場内が暗くなり、天使牛田君がまぶしいオーラを
まとって登場。背が伸びて、天使というより王子。
天使王子。
ピアノの前に座ると、以前はヒザを伸ばし気味に
ペダルに置いていた脚もぐんと伸びて余裕のある
角度、座り姿も美しく、たっぷり間を取って、
モーツァルト。
この方は、本当に歌の人と思います。
ひとつひとつの音色もまったく天使なのですが、
その重なり方、和声の出し方がマイルドにも熱く
指先のコントロールが秀逸。
金子勝子先生のメトードを私も毎日やらなければ
とまた思う次第でございます。
素晴らしいメトードです
2楽章の最後の音、手首から上をぱっと上に曲げ
かわいらしく話を閉じてから、3楽章のトルコ
行進曲が鮮やかに始まった辺りから、私の中の
牛田君像が変わってゆきました。
打鍵のキレがまるで違います。
これがロシアで勉強されているということなので
しょうか、力はまるで入っていないのに沸き立つ
ような躍動感、立体感。
続くバラード1番、からだを目一杯使って低音を
響かせてはじまり、元々持っておられた理解力、
深い悲しみと重厚な内容をおなかの底でしっかり
とらえているのに加え、コーダもスピードを保ち
抜群の安定感で歌いきって、2曲目から場内は
ため息とどよめきとブラボ、ブラボーの喝采。
前半最後にリスト死の舞踏。
恐ろしい地獄の低音が無機質にはじまり、つい
さっきまでここにいた天使がいなくなったことに
なおさらな恐ろしさを醸しつつ、美しくひんやり
した音に包まれる中、次第にオクターブ高速技や
連続グリッサンドの超絶技巧を、これでもかと
見せつける悪魔のオーラ。
エキセントリックに近い世界感があり、はっと
気づいたことは、15歳になった牛田君の万能感。
これまで持て余していた大きな才能にようやく
からだが追いついて、オクターブにもペダルにも
出したいボリュームにも届きたいスピードにも
筋肉が追いついて、ピアノを弾くのが嬉しくて
たまらない。
世の中に残された偉大な音楽の数々を惜しみなく
表現できる喜びと万能感にあふれた、若い一人の
男性ピアニストとしてすっかり成長されたことを
確認して、何か涙が次々出てきました。
子供が成長してというよりも、目の前で、歴史が
動いているのを確認しているような。
後半の目玉は、私も大好きなラフマニノフの
ソナタ2番。爆弾のような曲とはホロヴィッツが
言ったらしいのですが、この2楽章がゆったり
ながらひと聴き惚れの破壊的な美しさなのです。
何度も譜読みしては、アタッカで切れ目無く続く3楽章に
挫折してはお蔵入りになる私の楽譜であることよ
今日の最後にふさわしい名曲の名演でした。
歌の天使たる力が叙情的なラフマニノフぶしに
はまりすぎるし、ばりばり内声をきかせて響きの
立体感が半端なく、ついにきた3楽章の後半、
たたみかける胸熱の超絶技巧も万能感で駆け抜け、
そしてもう歌がうまくて、もう涙が‥。
最後の和音が消え入るのを待ちかねて、でも皆
ちゃんとフライングせずに待って、ブラッヴォー!
の大喝采でした。ああ、涙が‥。
アンコールの前、マイクをとってお話してくれた
のですが、2年半前の鈴を転がすような天使の
声が印象深すぎて、すっかり王子の声になられた
ことにまた驚嘆。
今フィギュアスケート羽生選手の使用曲で話題の
ロミオとジュリエットも弾いてくださいました。
アンコールはおおむね天使曲でしたが、今季の
各地コンサートでは他にプロコフィエフの戦争
ソナタ、リストのメフィストワルツもレパートリー
にあり、手を緩めずに攻め続けておられる感が
楽しみでなりません。
今後も彼の成長を見続けようと心に決めました。
サインも天使でした。