チャイコフスキーコンクール閉幕
終わってしまいました。
4年に1度の大きく過酷な舞台に集結した、
世界の物凄い才能をもつ人たち。
その人生をかけたステージが連日何人も
続けて繰り広げられ、そして昨日すべてが
終わってしまいました。
ピアノ部門の結果は
1位 ドミトリー・マスレーエフ(ロシア)
2位 ルーカス・ゲニューシャス(ロシア/リトアニア)
ジョージ・リー(アメリカ)
3位 ダニエル・ハリトーノフ(ロシア)
セルゲイ・レドキン(ロシア)
4位/批評家賞 ルカ・デバルグ(フランス)
1次予選から非常にレベルが高いと言われた
今回のコンクール、ファイナルに進んだのは
2次予選でも魅力が抜きん出た、下馬評も
納得の6人だったようです。
でもファイナルの協奏曲では疲労もあってか
かなりわからなくなっていました。私も夜なべ
して観ましたが、どうみても一番輝いていた
と思ったのが、最年少16歳のきらきら王子、
ハリトーノフ。
指先のフォームが教科書を切り取ったような
美しい形で、最初の一音からきらきら光る、
誰とも違う音色。
あまりの美しさがその日は頭を駆け巡り、
レッスンでも生徒たちにこの動画を見せずに
おれませんでした。
「手をね、この形にするんだよ、ほら手をみて」
「イケメンだね先生」
「顔はいいから!手をみてよ!」
「だって手がうつらないじゃん、はやく手〜」
「ほんとにイケメンだよね」
「いま髪がばさって浮いた!かっこい〜」
子どもたちにも大人気のハリトーノフでしたが
演奏後の現地会場の拍手が思いのほか少ない
のが気になっていました。
もしや動画ではわからない決定的な違いがある
のかもしれない(し、もちろん私の鑑賞力の
なさかもしれない)と思わせたのが、1位を
もぎとったマスレーエフへの大歓声、大拍手。
1次予選から物凄い人気でした。
確かに、申し分の無い演奏力、タフな集中力、
絶妙な温度差をつくる音楽への真摯な愛は
感じられたのですが、どうも飄々とし過ぎて
これだという魅力が分かりづらかったのかも
しれません。
公式ページでコンテスタントへクイズ形式の
インタビューがあるのですが、あらゆる質問に
「I have no idea.」的な答えをし、どこか
世の中に背を向けているような印象もあった
マスレーエフ。おそらくその理由があとから
わかったのですが、なんとコンクール直前に、
お母さんを亡くされたというのです。
それをきいてから、1次予選のベートーヴェン
『告別』を観たら…涙で観えませんでした。
でも私の今回は、なんといっても、ルカ。
ルカ・デバルグさんです。
11歳からピアノを始め、10代では文学を志し、
ピアノを専門的に始めたのは20歳から。
パリの名門エコールノルマルに通いつつ、
ジャズのグループでもピアノを弾く24歳。
英才の中の英才が集うこの場で、まったくの
無名の、超異端児でしたが、あまりの世界観に
聴衆を虜にし、すっかり人気者になってしまい
ました。
ルカの才能は、独自で純粋すぎる音楽の解釈と
愛情表現でしょうか。
ウディ・アレンの映画に出てきそうな人です。
2次予選の課題であるモーツアルトの協奏曲、
ルカはそれまでオーケストラと合わせた経験が
無く、ソロはうまくても、オケとの共演では
破綻さえありうると心配されていたのですが、
まさかの、超絶な名演だったのです。
http://tch15.medici.tv/en/performance/round-round-2-piano-2015-06-24-2130000300-great-ha
音楽への愛をさらけだし、弾いていない手では
常に指揮を振っており、顔がいつもどこか他の
楽器を向いていてオケパートの出番を促し、
指揮者がふたりいるような不思議な感覚ながら、
でも頼もしい求心力で、誰よりも音楽と解け合い
歴史的といっていいほどの感動を呼びました。
これは、いつもジャズを弾いていて他の楽器と
セッションで戦っているからだと、あとから
考えると納得の理由はつけられたのですが、
それにしても、これまで見たことの無いような
素晴らしい時間だったのです。
ファイナルでは打って変わって、準備不足だった
のか表情が固く、演奏も固く、ところどころで
暗譜も心配なほどでしたが、時折はっとする
新たな美しい音もありました。
2次が終わってから優勝も噂されたルカですが、
4位という結果と批評家賞の受賞は、これからの
彼の人生にぴったりだったのではと思います。
昨日のガラコンサート、チャイコフスキーの小品
「感傷的なワルツ」を詩的に、哲学的に、
この上なくお洒落に弾き、この世界への感謝と、
何かと訣別したような素敵な表情で、ステージを
後にしていました。
http://tch15.medici.tv/en/performance/great-hall-of-the-moscow-conservatory
音楽と表情だけでこんなに語り尽くしてしまう
ルカ。きっとどんな大きな舞台でも、街の片隅の
ライブハウスでも、どんな田舎の発表会でも、
小さな家のピアノでも、ルカは同じように弾く
でしょう。
言葉は無力。音楽をやっていて本当によかった。
ありがとうルカ。
なんとしても、日本でも弾いてください。