ピアノマニアの映画
ずっと観たかった映画がありまして、近隣では上映しておらず、
この春DVDがリリースされて、やっと観ることができました。
映画「ピアノマニア」です。
実在するピアノ調律師のドキュメンタリーで、ドイツ人の、
「シュテファン・クニュップファー」
という、二度見、三度見くらいしないと発音できないようなお名前
の方が主人公。
あらすじはこんな感じです。
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ロカルノ映画祭を皮切りに世界が熱狂した『ピアノマニア』は、
スポットライトを浴びるピアニストではなく、彼らを影で支える
調律師の存在に光を当てる異色ドキュメンタリーである。
主人公のシュテファン・クニュップファーは、ピアノの老舗
ブランド・スタインウェイ社を代表するドイツ人調律師。
彼の務めは、使い慣れた自分の楽器を携帯できないピアニストが、
演奏会や録音に万全の状態で臨めるようバックアップすることだ。
1台のピアノで様々な表現を追求するピエール=ロラン・エマールは
試し弾きのたびに「質問がある」と繰り返す。
次々と高いハードルを課す完璧主義者のピアニストと、職人としての
意地とプライドを懸けて、無理難題を丹念にクリアする調律師——
究極の響きを求めて、両者一歩も譲らぬ“ピアノマニア”同志の共同
作業の模様が、時に緊迫した、時に平穏な空気の中で映し出されて
いく。
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感動で、涙がいっぱい出ました。
主人公クニュップファーが、いろいろ考えて行動するという、ごく
シンプルな話なのですが、なんというか…。
言葉は少ないのに、目とか、動きとか、間で語られる、わくわく感、
熱量が、半端じゃない説得力で、演出もとにかく洒落ていて、ピアノ
の魅力を伝えたい愛にあふれていて、これ、撮ってる人も、編集した
人も、関わった人がみんなまぎれもなく、“ピアノマニア”だろうと。
この映画の主人公は、「ピアノ」そのものだという人がいましたが、
まったくそのとおり。
指先を動かすだけで、猫が歩くだけで、簡単に音を出せる楽器。
音を出すのが簡単な分、複雑な内部機能を持ち、300年間の研究で
巨大に進化した音楽芸術の道具。
この道具が魔力を持ち、生き物となり、その魅力に取り憑かれた、
まさに、ピアノマニアのピアノマニアによるピアノマニアのための
映画でした。
ちなみに以前、私も調律を学ぶ学校に通っていたのですが、、、
ピアノ調律で大変なことは、なんといっても、鍵盤が88鍵あると
いうことです。
1つの鍵盤につき、弦は中音〜高音部で3本、低音部で2〜1本、
全部合わせると230本くらい。
ハンマーを動かすアクション部分は、1つの鍵盤につき、約80個
の部品が使われます。アクション部品80個×88鍵=7040個。
いろいろ合わせると、箱型のアップライトで8000個、グランドピアノ
で10000個の部品があるのであります。
ふーん、と思いますが、何が大変かというと、この88鍵をそろえる
のが大変です。
たとえば…極端なたとえですが、88人の前髪を切りそろえる、という
イメージです。
理想の前髪の形を決めて、1人にハサミを入れて、そろえようとして
いくと、あっち側が短くなり、今度はこっち側が合わなくなり、、
だんだん短くなるパターンがあります。
それが88人いるというイメージ。
1つの音が整っても、それにあと87個をそろえないことには、音が
でこぼこして、音楽が完成しません。
そもそも1つのピアノに張られた弦は、構造からして同じではなく
そもそも同じ種類の音にはなり得ないところを、調律師さんの熟練
技術と美意識により、均一な流れに聴こえるよう、整備されている
わけです。
…ふーん、と思いますが、何が言いたいかというと、こんな話をする
のは本当に楽しいな、ということです。
ピアノマニアのはしくれの、長い独り言でした。