ピアノマニア探訪/輸入ピアノと国産チェンバロ
念願のファツィオリに会った翌日。
仲良くしていただいている会社員時代の先輩が
フルート吹きなので、再会がてらピアノのある所
で一緒に演奏して遊んでもらおうと、江戸川橋の
輸入ピアノ店・ピアノパッサージュさんへ。
こちらのピアノスタジオでは、名器グロトリアンを
弾くことができます。
グロトリアンと会うのは、一昨年の浜松以来2回目。
スタジオにあったのは、浜松で弾かせてもらった
のとあまり変わらない、新しい時期のものでしたが
浜松では広い展示スペースに置いてあったのが、
今回は8畳のスタジオ内。
ずいぶんと印象が違いましたが、やはりスカーンと
澄んでクリアな明るさ、深みも無限なグロトリアン
の音色。
フルートと音の質を合わせるのは、私にはすぐには
難しかったです。そもそもシンプルな素材勝負で
飾り立ててくれないので、実力以上の音は出して
くれません…
でもそれが大きな魅力で、クラシックもジャズも
どんな曲調のものでも出したい音を出してくれる
というので、ここでレッスンされている先生も
お気に入りなのだそうです。
私もレッスンに通いたいです。上達しそうです。
展示ピアノも、あれこれ見せていただきました。
ベヒシュタインのアップライトピアノ。
ロゴが通常の「C.BECHSTEIN」とは違い、
C. がつかない「BECHSTEIN」のものをはじめて
触りました。
弦の張り方などあたらしい製法なんだそうです。
ベヒシュタインのアップライトというのは、
以前弾いたときびっくりしましたが、本当に
性能が良く、目をつぶるとグラントと錯覚する
くらいです。タッチ、強弱の幅の広いこと。
デジカメでいうなら画素数が桁違いに多いです。
ペダルも薄くモダンな珍しい形。
シンプルで超おしゃれ。
通常のC.BECHSTEINのグランドピアノ。
私が通っていた大学のホールには、戦前の骨董品
レベルのベヒシュタイングランドが置いてあり、
この同時期のグランドピアノも触らせていただき
ました。よく似ていて懐かしかったです。
大学にあったものは消耗が酷く、すぐ音が鳴らなく
なったり尋常じゃなくずれたりして私たちを気持ち
悪がらせましたが、その不完全さが自分たちと
似ているとも言え、とても愛着があったものです。
私の母は、歳を取るごとに思ったことをすぐに
口に出すようになりましたが、そんなような
ストレートすぎる性格のピアノでした。
今回いちばん心ひかれた、箱形チェンバロの
スピネット。52鍵。
チェンバロは弦をはじくだけのしくみなので
タッチで強弱が変えられないわけですが、
鍵盤の高音部と低音部にある銀色のツマミを
引くと、中のアクションが変わってリュート
というギターにそっくりな音色に変わります。
ちょうど長男がバロックの曲を練習していて、
ちょうどこのリュートのしくみについて勉強
していました。本当に見事に音色が変わって
面白いです。
52鍵なので弾ける曲は限られますが、思いの
ほか豊かな、味わい深い音色。チェンバロと
いう楽器にこれほど魅力があったから、今の
ピアノ文化があるわけで、豊かな人智の歴史
に思いを馳せて幸せな気持ちになります。
お値段もお手頃、これはいつか手に入れたい。
こちらはもう少し大きなスピネットで、日本で
今も活躍されている久保田彰さんの作品。
とても美しい造形、木そのものの鍵盤。
私がチェンバロに惹かれる理由が、自分で簡単に
調律ができるところなのですが、このスピネットは
調律や修理が個々でしやすいように工夫がされて
いるそうなのです。弾いている場所からも、弦を
はじく部分をよく見ることができました。
弦を支えているピンが、日常よく見かける六角ネジ
くらいの小さなもので、くるっと回りそうです。
ピアノのチューニングピンは、ごついですよね…
私がかつて調律の勉強をしていたことで、周りの
人から時々自分で調律できていいね、と言って
いただくことがありますが、正直できません。
未熟にピンを回すとすぐに狂ってしまうのです。
狂ったたび直していては持たないくらい難しい
世界です。方言で言うと調律なんてようしません。
でも、チェンバロはいいな。
楽器の構造と状態を分かって演奏することは、
演奏者と楽器がより親密になるということで、
より原始的な表現手段に近くなると思います。
音楽が歌うように、踊るように。
指先だけでたくさんの音を操ることができる
鍵盤楽器は、知的に洗練された機能を持った
優秀な道具であり、便利でお得だといえますが、
機能が複雑な分だけ、そもそも楽器を鳴らすと
いうことが分かりづらく、たとえばよく指が回り
ミスをしないことが凄いというような、機械的
頭でっかちな状態になることもある気がする
わけです。
というわけで、私が好むピアニストの傾向は、
この洗練された機能を理解しながらも、原始的
本能的情動も兼ね備えている方たちのようだ
ということが、長々と思考する中でわかった
結論でした。
満足したところで、もう一つ。
昨日のガス圧式ピアノ椅子の、お手頃品をみつけ
ました。
昨日の10分の1くらいの価格で、本当に現実的検討!
そういえば昨日の吹雪は嘘のように温かな、いかにも
冬の東京の日差しと、それから温かなパッサージュの
皆さんでした。出会いに感謝です。
ファツィオリも夢だったかもしれない。