ピアノマニア探訪/『グランフィール』展示会
アップライトピアノに、グランドピアノの
機能を搭載するという、ピアノ史における
革命的な発明がなされたという情報を
しばらく前に耳にしていました。
アップライトとグランド、両者の大きな違いは
アクション構造にあります。
アップライトピアノはタテに弦が張ってあり
グランドピアノはヨコに弦が張ってあります。
音を鳴らす(打鍵する)とき、ハンマーが
キツツキのくちばしのように横運動⇄をする
のがアップライトピアノ。
ハンマーがその頭上にある弦をめがけ上下⇅に
動くのがグランドピアノです。
遊園地の乗り物に例えると、海賊船にゆらゆら
揺れる動きがアップライトピアノの構造、
垂直にのぼって急降下するフリーフォールが
グランドピアノの構造に近いでしょうか。
速いのは、重力のある上下運動の方です。
上下運動に求められるすばやさを、横運動で
同じく実現するのは困難です。
この春先、名古屋のピアノ屋さんを巡って
いて、その革新技術『グランフィール』の
話になりました。
アップライトピアノのハンマーが、横方向に
弦を打ち付けた後の動きを補助する仕組み。
通常アップライトピアノが1秒間に連続して
打鍵できるのは約7回なのに対し、
グランフィール搭載アップライトピアノは
その倍の約14回。
グランドピアノと同じ数になります。
なんか、良さそうだと思いました。
このグランフィールを開発されたのは
鹿児島の調律師さんだとのこと。
か、鹿児島か‥
とそのときは思いましたが、つい先日、
“グランフィール全国展示会in北陸”
のご案内が、我が家のポストに♡
というわけで先週、金沢市の松木屋さんへ
グランフィール体験に行ってきました。
結論から申しますと、非常に良かったです。
というか、なぜ今まで無かったの?
な ぜ だ !
お恥ずかしながら私自身長年にわたって
グランドピアノが持てない暮らしでした。
高校までは中古アップライトピアノ。
東京で一人暮らし中は電子ピアノ。
結婚後、実家のアップライトピアノ再び。
なので常時レンタルスタジオのグランドピアノ
がお友達でした。
家ではグランドピアノのタッチと響きの
イメージをつくりながら弾きます。
グランドピアノがなくても、それなりに
練習はできます。いろんなピアノに触れて
弾くので対応力やイメージ力がつくのは
メリットだといえなくもありません。
でも、イメージだけ鍛えられてもできない
ことがあります。
耳と、筋肉の感覚です。
広い部屋の離れた人に大声で話しかけるのと
狭く響く部屋で隣にいる人に語りかけるのと
使う耳と筋肉がかなり違うように、
アップライトピアノとグランドピアノでは、
使う耳と筋肉がかなり違います。
アップライトピアノが1秒間に打鍵できる
のは約7回、グランドピアノは倍の約14回。
この構造は、指をたくさん上げなくても
次の音が弾けるということでもあります。
連打については、アップライトピアノで
ドの音を続けて2回弾こうとするとき、
1回めのドを弾くために鍵盤を押し下げた
あと、再び元の高さまで戻さなければ、
同じドの音は鳴らせません。
戻りが足りないまま再度鍵盤を押し下げても
音抜けという状態になり、ミスタッチです。
それがグランフィールやグランドピアノでは
1回めのドの鍵盤を押し下げたあと、半分
くらいの高さまで戻せば、次の同じドの音を
鳴らすことができるのです。
違う音をなめらかに弾くときも同様です。
弾いている指と弾いていない指の高さの差が
少なければ少ないほど、指を高く上げなくて
すみます。
音のつながりがより密接になるわけです。
指をたくさん上げなくても弾けるピアノと
指をたくさん上げないと弾けないピアノ。
音抜けしないよう常にしっかり弾いてしまう
ピアノと、ゆるく軽く撫でるように鳴らせる
ピアノ。
音と音の間に超えられない隔たりがある
ピアノと、密接に重なり合うピアノ。
グランドピアノで、より自分の心に近しく、
自然に近い状態で音楽を鳴らせるのは、
素敵なことです。
鹿児島から来られた、グランフィール開発者
藤井さんにお話を伺いました。
住宅事情やいろんな理由で、アップライト
ピアノしか持てないけれど、すごくピアノを
がんばっている人が大勢います。
昔は高校生くらいでやっと弾いていた曲を、
今はコンクールなんかで中学生や小学生の
子達が弾いていますよね。
チェルニー30番になったら、グランドピアノ
でなければ限界がくると言われているけど、
チェルニー30番なんて、今何歳の子が弾いて
いますか。ほんとに小さい子達です。
グランドピアノを持てる環境に恵まれた子達
だけがどんどん先へ行ってしまうのです。
やっと、グランドピアノを弾くための練習が
できる、アップライトピアノができました。
グランドピアノのほうが、弾いていて、
おもしろいでしょう?
本当によくぞつくってくださいました。
今あるアップライトピアノにも、20万程度で
取付ができるそうです。
実際に拝見できる機会がこれからもっともっと
増えますよう、私も地方から応援しております。